教会育ちのTちゃん

Tちゃんは凄く怖がりで、幽霊とかオカルト系の話はNGな子です。 オカルト研究部とは犬猿の仲で、出会う頭に言い争いが始まることも珍しくありません。

そんなTちゃんが、実際に幽霊を見ることとなったのは、オカ研の夏合宿でのことでした。 どうしてそんなことになったのかは、また長い話になるので省かせていただきたいと思いますが、簡単に言うと、オカ研が女学生だけで合宿しようとしていたところに、監視名目で無理やり割り込んでいった次第です。

宿泊先の旅館側でも部屋の用意に困ったようですが、Tちゃんの熱心な交渉によって、普段は使われていなかった開かずの間に泊まることができるようになりました。

このように対人的にはとてもパワフルなTちゃんは、昼間はさんざんオカ研の活動にちゃちゃを入れて、ストレス発散していい気分に浸っていました。

ところが、いざ就寝の時。

オカ研のみんなと離れ、ひとりだけ別の間で眠る状況になって初めて、自分が恐ろしい状況に置かれていることに気が付いたのです。

長く使われていなかった部屋だとは言え、客間として使われていたはずなのに、どうして仏壇が置かれているのだろう。

閉じられた仏壇や壁の四隅に貼られているお札が妙に気味悪い。

なんだか妙に空気が重く濃いような感じがするのはどうしてだろう。

とりあえず眠ってしまおう。

そう思ってTちゃんは、ふとんを被ってひたすら心の中で神様に祈りました。

いつの間にか眠っていたのか、

壁に掛けられていた古い時計がボーン、ボーンと2回小さな音を立て、Tちゃんは意識を取り戻しました。

最初に感じたのは違和感でした。

それはまるで自分が眠っていた場所とは違う処にいるような。

確かに壁や仏壇はそのままあって、旅館の別間にはオカ研や他の客も眠っているはずなのに、

もしここで助けを求めて叫んだとしても、彼らには自分の声が届かない……そんな不思議な確信が心の中を占めていきました。

「怖い……」

Tちゃんがそう思った瞬間。仏壇の中からコンと音がしました。

最初は、中から誰かがノックでもしているかのような小さな音でしたが、それは段々と大きくなっていきました。

「怖い……怖い怖い怖い怖い」

Tちゃんが怖いと思う気持ちが大きくなればなるほど、仏壇の中の音は大きくなっていくようでした。

音がする度に仏壇の扉がガタガタと揺れ、お札は今にもはずれそうになっていました。

Tちゃんは神様に一生懸命祈り始めました。

「父と子と精霊の御名において命ずる!」

「悪霊よ去れ!」とTちゃんが呟いた瞬間、お札がはじけ飛んで仏壇の扉が勢いよく開きました。

音が止み、空気が静寂に満たされた次の瞬間、

Tちゃんの耳元で何かが呟いたのです。

「効かないよ。」

悪霊の声には嘲るような笑いが含まれていました。

その声を聞いたTちゃんの全身から血の気が……。


幽霊が怖い話を期待していた方はここまでです。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
以下、本当に怖い人の話となります。- オカ研


悪霊の声には嘲るような笑いが含まれていました。

その声を聞いたTちゃんの全身から血の気が……。

沸々と湧き上がり、その小さな体がぷるぷると震え始めました。

「こ……この………。」

悪霊はTちゃんが震える様子を見て調子に乗り、さらに脅し掛けようとし……

「痴れ者がぁぁぁぁぁ!」

さら脅しを掛けようとしましたが、次の瞬間、

Tちゃんの全身の回転力を手のひらの一点に集めた、奇しくも中国武術で言う発勁と同じ状態となった、

Tちゃんのビンタが悪霊の頬を直撃しました。

「ぐぼぁっ!」

悪霊はTちゃんのビンタで部屋の片隅まで弾き飛ばされてしまいました。

悪霊はわけがわからず困惑していましたが、先程のTちゃんの震えが、

恐怖によるものではなく武者震いだったということだけは理解することができました。

そして、悪霊なのに人間に張り飛ばされ部屋の片隅でふるふるしている自分の震えこそ、恐怖と怯えによるよるものであることに気が付いたのです。

「神の言葉が効かないだと?」

近づいてくるTちゃんのドスの聞いた声に悪霊はちょっとちびりました。

「神への畏れを知らぬ、このクソ虫がぁぁぁ!」

二度目のビンタで、悪霊は部屋の反対側まで吹っ飛ばされてしまいました。

「父と子と精霊の御名において……」

自分に向かってノシノシと足音を立てて近づきながら、重低音で呟くTちゃんの口からは、怪獣とか巨大な神話生物とかが口から出す瘴気のようなものが吐き出されていました。(と悪霊は思いました。)

「……命ずる……」

Tちゃんの右手が天に届くかの如く振り上げられました。

「か、神様!」

思わず悪霊は、前世においてさえ一度も祈ったことのない神に救いを求め、ついそう口に出してしましました。

次の瞬間……。

「それで良いのですよ!」

と、Tちゃんは悪霊にビンタをかますのではなく、代わりに天使のような輝かしい笑顔を浮かべて、悪霊に微笑みかけていました。

そしてそこから悪霊に対し、後に伝説となった48時間耐久神説教が行われるのですが、その話はまた別の機会に。

ただ、説教中に悪霊が注意を逸らしたり、仏壇の中へ戻ろうとする素振りを見せる度に、Tちゃんの天使の顔が阿修羅の相に変わるため、 恐ろしく思った悪霊はただひたすら静々と説教を聞き続けたということだけは述べておきたいと思います。

Tちゃんの恐ろしさに屈服、もとい、Tちゃんの信仰心の篤さに心打たれた悪霊は、その後、旅館を離れてTちゃんに付き従う

もとい、Tちゃんと共に歩むことになりました。

悪霊は今では「天使見習い」と名乗らされ、常にTちゃんの傍に控えさせられているようです。

この事件を目撃したオカ研部長は、新聞部のインタビューに次のように答えています。

「最初、暴力と恐怖で相手を徹底的に怯えさせた後、めちゃくちゃ優しく接するサイクルを繰り返すことで相手を篭絡する。これまんまヤクザの手口ですわ。」


おわり



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